秋吉理香子さんの『聖母』を読みました。
「どんでん返しがすごいミステリー」と聞いて読み始めたのですが、この作品、普通のミステリーとは少し違います。
なんと、犯人がかなり早い段階で分かります。
「え? じゃあ何がミステリーなの?」と思うかもしれません。
僕も最初はそう思いました。ところが、読み進めていくと少しずつ意味が分かってきます。
『聖母』の面白さは、「犯人は誰なのか?」ではありません。
「犯人が分かっている状態から、一体どうやって話をひっくり返すのか?」
ここにあります。
そして最後まで読んでみると、確かにどんでん返しとしてはかなり強烈でした。
この記事では、秋吉理香子『聖母』について、ネタバレなしであらすじや魅力、実際に読んだ感想を紹介します。
『聖母』のあらすじ
物語の始まりは、幼い子どもが殺害されるという凄惨な事件。さらに同様の事件が続き、警察は犯人を追うことになります。物語は大きく、事件を捜査する刑事、犯人、そして幼い娘を持つ母親という複数の視点から進んでいきます。
ここで面白いのが、犯人を探すことが物語の中心ではないこと。犯人については、読者にも比較的早い段階で明かされます。
そのため、「犯人は誰なんだろう?」と考えながら読むタイプのミステリーではありません。
むしろ、「犯人は分かった。じゃあ、これから何が起こるんだ?」という状態で物語が進んでいきます。
この構成が、普通のミステリーとはかなり違うところです。
犯人が分かっているのに、なぜ面白い?
『聖母』を読むうえで、ここが一番重要だと思います。
普通のミステリーなら、「犯人は誰?」という謎を最後まで引っ張ります。
読者も登場人物と一緒になって犯人を推理しますよね。
ところが『聖母』は違います。犯人が分かった状態からスタートする。だからこそ、途中から気になってくるのは、
「この犯人は、このあとどうなるの?」ということ。
そして、もう一つ。「自分が今読んでいる物語は、本当に自分が思っている通りなの?」という違和感です。
この違和感が少しずつ積み重なっていき、終盤に一気に回収されます。
つまり、『聖母』は犯人当てではなく、読者が物語をどう認識しているかを利用したミステリーなんです。
実際、読者レビューでも「犯人の名前は最初から分かっているのに、終盤から驚きの連続だった」という評価があります。
『聖母』のどんでん返しは強烈だった

個人的な感想を言うと、確かにどんでん返しとしては強烈でした。
ただし、「犯人が実は別の人物だった」というタイプではありません。
そこを期待すると、少し違う作品に感じるかもしれません。
『聖母』の場合は、読者が登場人物や家族関係について自然に作ってしまったイメージを利用しています。
最初は何となく、「この人物はこういう人なんだろう」「この人たちはこういう関係なんだろう」と思いながら読んでいく。
ところが終盤になると、「え? そういうことだったの?」となる。
そして、そこで初めて、それまで読んできた物語を別の角度から見直すことになります。
この「自分が勝手に思い込んでいた」という感覚が面白い。だから、読み終わったあとに最初から読み直したくなるんですよね。
実際に『聖母』には、事実を知ったあとにもう一度読み返したくなったという感想もあります。
「聖母」というタイトルの意味がすごい
そして、個人的に一番好きだったのがタイトルです。
『聖母』というタイトルの意味が、最後まで読むことでしっかり回収されます。
最初に「聖母」という言葉を見たとき、多くの人は「優しい母親」「慈愛に満ちた母親」といったイメージを持つのではないでしょうか。
でも、この作品で描かれている「母」は、そんな単純なものではありません。
子どもを守りたい。
子どもの幸せを願いたい。
その気持ちが強くなったとき、人はどこまで行ってしまうのか。
そんな「母性」の光と影が、本作では描かれています。
だからこそ、最後まで読んだあとにタイトルを見返すと、
「ああ、だから『聖母』なのか」
と納得できます。
タイトルをここまで物語の内容と結びつけてくるのは、かなり好きでした。
『殺戮にいたる病』に少し似ている?
ここからは完全に個人的な感想です。
『聖母』を読み終わったあと、僕が思い出したのが我孫子武丸さんの『殺戮にいたる病』でした。
もちろん、ストーリーそのものが似ているわけではありません。
ただ、読者が無意識に作っている「前提」を利用して、物語の見え方をひっくり返す構造には、少し似たものを感じました。
『殺戮にいたる病』も、読者が文章を読んで自然に作ったイメージそのものが、後から大きく揺さぶられる作品です。
『聖母』も、登場人物や家族関係について読者が勝手に作ってしまった認識を利用しています。
そのため、個人的には、「この構造、どこか『殺戮にいたる病』っぽいな」と感じました。
すでに『殺戮にいたる病』を読んでいる人なら、もしかすると途中で仕掛けを警戒するかもしれません。それでも、最後まで読むと「そう来たか」と思わされる部分はありました。

『聖母』は「犯人を当てる」本ではない
ここは、これから読む人にぜひ伝えておきたいところです。
『聖母』を「犯人当てミステリー」だと思って読むと、「犯人、最初から分かってるじゃん」
となってしまうかもしれません。
でも、それはこの作品の狙いとは少し違います。
むしろ、「犯人が分かった状態から、どこまで読者を騙せるのか」という作品です。
犯人が分かっているからこそ、犯人の行動や周囲の人物の描写を別の角度から見ることができます。
そして終盤になって、今まで何気なく読んでいた部分の意味が変わってくる。
だから、犯人を知ってしまうこと自体は、この作品の最大のネタバレではありません。
本当に知らないほうがいいのは、その先で何がひっくり返るのかです。
ここまで読んで気になった人は、ネタバレを見る前に
『聖母』は、ネットで検索するとかなり重要な情報が出てきます。
特に「聖母 ネタバレ」「聖母 どんでん返し」などと検索すると、作品の仕掛けまで知ってしまう可能性があります。
せっかくなら、答えを調べる前に自分で読んでみるのがおすすめです。
なぜそう言える?:
『聖母』は犯人そのものより、終盤で明らかになる「読者が思い込んでいた前提」の反転が大きな魅力だからです。
『聖母』はこんな人におすすめ
『聖母』は、こんな人におすすめです。
- ネタバレなしでどんでん返しを楽しみたい人
- 『殺戮にいたる病』のような叙述トリックが好きな人
- 犯人当てより「物語の見え方が変わる」ミステリーが好きな人
- 読み終わったあとに最初から読み返したくなる作品が好きな人
- 家族や母親をテーマにしたミステリーが好きな人
- 短めの作品を一気に読みたい人
特に、「犯人は誰?」よりも、「自分は今まで何を見せられていたんだ?」というタイプの驚きが好きな人にはおすすめです。
『聖母』を読んだ感想
個人的な評価は、8/10です。
犯人が序盤で分かるという、一見するとミステリーとして変わった構成ですが、読み終わってみると、その構成だからこそ成立する面白さがありました。
そして、どんでん返しは確かに強烈。
ただ、『殺戮にいたる病』を読んだことがある自分としては、読者の認識を利用して最後にひっくり返す構造に少し既視感もありました。
そのため、「今まで読んだことのないタイプの衝撃」とまでは感じなかったものの、それでも最後には「なるほど、そういうことか」と楽しめました。
何より良かったのは、『聖母』というタイトルの意味を最後まで読むことで回収しきっていること。
読み終わったあとにタイトルを見返すと、作品の印象まで少し変わります。
まとめ|『聖母』はネタバレなしで読むのがおすすめ
秋吉理香子さんの『聖母』は、幼い子どもの殺人事件を描いたミステリーです。
ただし、一般的な犯人当てとは少し違います。犯人は序盤から分かっています。だからこそ面白い。
「犯人は誰なのか」ではなく、「ここからどうなるのか」「自分が見ているものは本当に正しいのか」という疑問を抱えながら読み進める作品です。
そして終盤、これまでの認識が大きくひっくり返されます。個人的には、どんでん返しとしてはかなり強烈でした。
『殺戮にいたる病』に少し似た構造を感じたものの、最後まで読めば十分に「やられた」と思える作品です。
そして何より、『聖母』というタイトルの意味。これはぜひ、自分で最後まで読んで確かめてほしいです。
ネタバレを知ってしまう前に、何も知らない状態で読んでみてください。「犯人は分かっているのに、こんなところからひっくり返すのか」という、普通のミステリーとは少し違った読書体験を楽しめる一冊です。


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